35歳の春、離婚した。6

あのさぁ

 

妻との出会いもうちょいだけ書かせて?

 

 

EXILEのATSUSHIに憧れてます系チャラクソ野郎に振られた妻。

 

あの野郎だけは今でも許せねぇ。

 

俺がビフィズス菌だったら、あいつの腸内環境だけは改善してやんねぇ。

 

今すぐ奴の部屋にジャンガリアンハムスター2万匹解き放ちてぇ。

 

そんくらい俺はムカついてる。

 

でもそんなクソ野郎でも妻にとっては本気の恋だった。

 

心底、傷付いていただろうよ。

それでもバイト中はそんな素振りも見せねぇで、気丈に振舞ってたっけな。

 

事情を知ってる俺は、カラ元気で頑張る妻の姿を見るのが辛かった。

 

そんな辛い状態の妻に、気の利いたことひとつも言えなかったよ。

 

「平成のオダギリジョー」の異名を持つ、今の俺ならさ

飲み屋の女の子を口説くための、プロフェッショナル話術が備わってるんだがな。

 

まだ18の青くせぇ俺はどうしていいかわからず困ってたっけな。

 

それでもなんとかしてやりてぇ。

妻を笑顔にさせてぇのよ。

 

そんな俺が、知恵をふり絞って出した答えが

 

「チョコの詰め合わせをプレゼントする」

 

だった。

 

はぁ?

 

魔人ブウか貴様は?

 

笑っちまうだろ?

 

どこをどうやったらその答えが導き出されんだよ?

アインシュタイン並みの思考回路だよ。

 

でもな

当時の俺が考え出した、妻を元気づける精いっぱいの作戦なんだよ。

 

ちゃんと理由があるんだぜ?

 

とにかく当時の妻は疲れ切っていた。

心身共にな。

 

疲れた時って甘いもんだよな?

糖を欲っするよな?体が。

 

でも妻の疲れは精神的なもんで、糖なんて欲っしてねぇ。

そう、今ならわかるよ。今ならな。

 

でも当時の俺は、妻を元気にするためには大量の糖が必要と思い込んでた。

 

その結果がチョコの詰め合わせよ。

 

スーパーでポッキーやらキットカットやら大量に買い込んでな。

紙袋に入れてさぁ

 

妻と初めて出会ったあのバイト先の裏口で渡したんよ。

 

バイト終わりに緊張しながらさ

渾身の

 

「はい!これ!」

 

ってな。

 

キョトンとする妻。

 

そらそうだわな。

バイト帰りに、突然紙袋に入った大量のチョコを押し付けられんだ。

 

完全に迷惑防止条例違反。

 

しかも相手はとんでもねぇドヤ顔ときたもんだ。

 

穴があったらコンクリ敷き詰めて埋めてくれよ…

 

事態を飲み込めず、固まる妻。

 

そこに畳みかけるように、俺の挙動不審波状攻撃だ。

 

俺「チョチョチョチョコは疲れた時にいいから…」

 

妻「・・・・・・」

 

通報もんだよ、こんなの。

今の俺だったら恥ずかしさのあまり、間違いなく自爆してるよ。

 

固まる妻の顔を見て完全に下手こいたと思った。

 

小島よしおの比じゃねぇ。

そんなの関係なくねぇ。

 

ああ、俺の恋終わったな…って悟ったよ。

 

でもな

 

妻はクスッと笑って

 

「ありがとう…」

 

って言ってくれた。

 

チョコプレゼントという理解しがたい暴挙。

 

でも俺なりに「なんとかしたい、元気になってほしい」って思いを込めた行動だったんだ。

 

そんなピュアな俺の気持ちが伝わったんだよ。

 

恋愛のノウハウなんかねぇ18のガキが、好きな子のために一生懸命行動したんだ。

その純粋な気持ちが妻に伝わった。

 

そこからだよ。

俺と妻の距離がグッと縮まったのは。

 

頻繁に連絡取るようになってな。

 

夜景を見に行ったり、買い物行ったり、飲みに行ったり。

映画なんかも観に行ったっけな。

確か初めて観た映画は「いま、会いにゆきます」

 

友達以上恋人未満。

そんなプラトニックな関係がしばらく続いたよ。

 

当然、俺は妻のことが好きだし、妻も俺のことを意識してくれてた。

と、思う。

 

しかし、しかしだ。

 

ここに来て、俺に告白する勇気がねぇ。

 

おそらく告白して成功する確率75%。

 

それくらい仲良かったし、いつも一緒にいた。

 

それでも振られたらこの関係が終わっちまう…

そんな一抹の不安が俺にブレーキをかけさせてたんだな。

 

今のままじゃダメだとは思ってても、今のままで十分幸せだったからな。

 

いつまでも告白してこねぇ俺に妻は痺れを切らしてたと思うよ。

 

情けねぇ…

 

そんなある日、俺たちはいつものように二人で飲みに行った。

 

そこで妻に言われたんだ。

 

「この中途半端な関係をどうにかしたい」

 

ってな。

情けねぇだろ?

 

普通、女の子にこんなこと言わせるか?

 

そこでやっとビビりの俺も決心してさ。

ついに告白したんだよ。

 

つぼ八で。

 

信じられるか?つぼ八だぞ?

 

今まで散々夜景だのなんだの、ロマンティックが止まらねぇ場所に行っといてよ。

最終的に告白したのがつぼ八と来たもんだ。

 

ムードもへったくれもねぇよな。

 

まっ、そんなところも俺ららしくていいんだけどさぁ。

 

で、告白の結果はもちろんOK。

 

結局は妻に背中押された形になっちまったけどさ

とにかく俺たちはやっと正式な彼氏・彼女になったんだ。

 

それからはまぁ、そこらにいるごく普通の幸せなカップルやってたよ。

 

デートして、旅行に行って、普通の幸せ。

 

妻が初めて料理を作ってくれた時は嬉しかったなぁ。

確か、1番最初に作ってくれたのはオムライス。

 

これがまたとんでもねぇ量でさ。

 

いやいや、一人前の概念狂いすぎだろって思ったよ。

まぁ、ちゃんと食ったけどな。

 

バレンタインにはケーキも焼いてくれたっけ。

 

一生懸命作ってくれたはいいが

出てきたのが銀紙へばりついてマーブルチョコが大量に乗った謎の物体。

 

なんかの罰ゲームか?

 

まぁ奥歯ギーーーン!なりながらも食ったよ。

 

最初はお世辞にも料理がうまくなかった妻。

結婚してからは料理上手になったけどな。

 

そんな感じでさ、どこにでもいる幸せなカップルってやつだよ。

 

未来になんの疑いもねぇ。

ただこの人といるだけで幸せ。

 

いつか結婚したい…そんなことを想う日々。

 

そんな幸せな二人が、17年後には離婚しちまうなんてな。

人間ってなぁ、本当にわからねぇもんだよ。