35歳の春、離婚した。5

あのさぁ

 

妻との出会いの続き書いてくわ。

 

「彼氏とうまくいってない」との情報を得た俺は、悩める妻の前に颯爽と登場した。

 

そう、よくある「彼氏との悩みを聞く係の人」で登場したってわけだ。

無論、下心はMAXである。

 

あわよくば妻と付き合いてぇ。

 

つーか、妻と付き合いてぇから悩み聞く。

 

そんなハイエナ根性丸出しで、妻の相談相手になる俺。

 

んでな、その当時の彼氏ってのがまたとんでもない野郎でよぉ。

年上の奴でさぁ、チャラチャラしたクソ野郎。

 

確か、妻がずっとやってた競技の先輩でさぁ

まっ、妻からしたら憧れの先輩だわな。

 

そいつが都会の大学行って、絵に描いたように大学デビューしやがってさ。

まぁ、調子こいてんのよ。

 

はぁ?

 

なんだお前?

 

俺が水戸黄門だったら、有無を言わさず「助さん格さん、懲らしめてあげなさい」確定案件だぞコラ?

 

んでさぁ、話を聞けば聞くほど

妻が遊ばれてんのがわかるわけよ。

 

第三者の客観的な目でみればな。

 

許せねぇだろ?

俺が好きで好きでたまらねぇ妻をだぜ?

 

俺がちょっと話せただけで幸せだった妻をだ。

 

言うに事欠いて、遊んでやがるだぁ?

 

許せねぇ…

許せねぇ!この男!

 

俺が北村匠海だったら、てめぇにだけは猫歌ってやんねぇ。

 

今思い出しても、ハラワタ煮えくり返るわ。

当時の俺なんて、激怒通り越して網戸。

 

完全に白目剥いて震えてさ

下手すりゃ妻に通報されてたよ。

 

でも悲しいかな。

妻は遊ばれてることに気付いてないんよ。

 

当然だよな。

だって好きなんだもの。

 

恋は盲目とはよく言ったもんでよ

 

俺から見たらどう見ても遊ばれてるけど、妻からしたら本気の恋だもんな。

 

そんな悩める妻に「遊ばれてるよ」なんて口が裂けても言えねぇ。

いや、妻もうすうすは気付いてたのかもしれねぇな。

 

だからこそ俺に相談したんだろうよ。

 

人生の酸いも甘いも経験して「北のジローラモ」の異名を持つ、今の俺ならさ

 

「そんな男やめて、俺んとこ来いよ」

 

なんて一言でも言えたんだろうけどさ。

 

いかんせん当時はまだ18のピュアなガキだ。

気の利いたことひとつ言えねぇ。

 

俺はただ黙って妻の話を聞き、「大丈夫だよ」しか言えねぇ。

 

はぁ?

 

大丈夫じゃねぇよ。

 

好きな女が遊ばれて傷付いてんだぞ?

体を張って助けてやれよ?

 

でもな、当時の俺は「妻のお悩み相談係」でそれ以上でもそれ以下でもなかったんだよ。

 

なんもできねぇ。

 

まぁ、それからはたまに悩みを聞くという、ただのバイト仲間からは1レベルアップした状態。

とはいえ、少し距離は縮まったけど、まだまだバイト仲間の枠は出ていない。

 

完全にいいお友達止まり。

 

まるでピエロだよ。

 

ハハハ、笑えるだろ?

笑ってくれよ…

 

はぁ?

 

笑うな…

 

 

笑うなぁぁああ!!

 

 

でもな

 

そんなピエロな俺の運命を変える出来事が起きた。

その日のことは今でも忘れない。

 

その日の衝撃を例えるなら、友達のいとこが柴田理恵だったくらいの衝撃。

 

 

なんと、妻が彼氏と別れたのだ。

 

 

正確に言うと、妻は振られた。

 

あのクソ野郎は散々妻を遊んで捨てたのだ。

俺が大好きなあの妻を。

 

無論、俺から不幸の手紙2万通送ってやったのは言うまでもねぇ。

わら人形にも2万本クギ刺してやったしな。

 

とにかく、妻は別れたのだ。

 

でもな

俺は正直嬉しかった。

 

不謹慎かもしれんが、本心は嬉しかった。

 

そりゃそうだよ、好きな人が彼氏と別れたんだ。

しかも相手はあのクソ野郎。

付き合っててもいいことなんて絶対ねぇ。

 

カラオケ行けば、一曲目からEXILEの「Ti  Amo」を歌いそうなタイプのあのチャラクソ野郎。

 

FENDIのマフラーとか巻いちゃうタイプの脳天直下クソカス野郎。

 

あんな奴とは別れて正解だ。

 

しかし、しかしだ。

 

妻はひどく落ち込んでたよ。

 

当然だよ。

俺からしたら、ハイパーメモリアルクソ野郎でもさぁ

 

妻からしたら本気で好きだった人。

そりゃ落ち込むだろうよ。

 

いっつも笑ってた妻が笑わなくなってなぁ

 

嬉しい気持ちの反面、笑顔が消えた妻を見るのが切なくってさ

あの頃は複雑な感情だったなぁ…

 

でもな

そんな落ち込む妻を、俺はただ遠くで眺めるしかできなかったんよ。

 

情けねぇよな。