35歳の春、離婚した。9

あのさぁ

 

離婚の原因について書いていくわ。

 

結婚生活を送る中で、俺の思いやりが足りねぇって話はしたな。

まぁ、それは大前提でさ。

 

もういっこ、俺にとっちゃ大きいことがあんのよ。

 

それは「金の問題」

 

うちは共働きでさぁ

妻もフルタイムの正社員。

 

んで、妻の職場っつーのがさぁ

 

ハイパーエターナルブラック企業なのよ。

 

文字通り、朝から晩まで働き詰めでさ。

心身共にボロボロ。

 

かわいそうなくらい疲れ果ててた。

 

俺がカンガルーだったら、有無を言わさず妻の上司をボコボコにしてるよ。

 

それでも俺がちゃんとケアしてやりゃ、妻の負担も全然違ったと思うよ。

でも精神的に追い詰められてた妻の支えに俺はなってやれなかった。

 

情けねぇ旦那だよ。

 

んでな、まぁこんなに働いてるからさ

給料もまぁまぁ貰ってくんのよ。

 

時給に換算すれば安いと思うけどさぁ

俺のいる地方都市じゃそれなりに高給の部類だ。

 

んで、その妻の給料ってのがな

 

 

俺より多いんよ。

 

 

はぁ?

 

泣くぞコラ?

 

楽しいBBQの最中に大泣きして、みんなに気を使わせたろかい?

 

この妻より収入がすくねぇってことが、俺の中でずーーーっとコンプレックスだった。

 

妻より稼げねぇ旦那。

 

別に女性を下に見てるわけじゃねぇよ。

 

でもな、少なくとも妻より稼いでいたかった。

 

小せぇ男のプライドだよ。

ただの見栄だよ。

 

とにかく妻より給料が少ねぇってのが、本当にコンプレックスだったんだ。

 

っていうのもさ

女の人って結婚してもバリバリのキャリアウーマンでやってくタイプと、専業主婦で家庭を守りたいってタイプがいると思うんだ。

 

俺の妻は圧倒的に後者だった。

 

キャリアウーマンってタイプじゃねぇし、今すぐ主婦になりたいって言ってた。

まぁ、ブラックすぎる妻の職場にも問題があるんだがな。

 

当然、旦那の俺としてはそんな妻の願いを叶えたいわけよ。

 

神龍になりてぇわけよ。

 

でも叶えらんねぇ。

 

なぜなら俺の方が収入が少ねぇからだ。

 

男のプライドだなんだって言ってもさぁ

現実問題、金がなきゃ話になんねぇ。

 

子供だっているしな。

 

うちの家庭は妻の収入に頼らなきゃ回らねぇのよ。

 

これが俺の中で負い目となって、重くのしかかってたんだ。

 

そんな中で妻はよく愚痴を吐いてた。

 

当然だよ。

あんなブラック企業に勤めてんだ。

愚痴のひとつも言いたくならぁな。

 

俺だって最初は妻の愚痴を親身に聞いてたよ。

 

でもな

決まって最後の結論は

 

「仕事やめたい…」

 

ってなるんだよ。

 

当たり前だよ、あんなクソブラック企業誰だってやめてぇよ。

 

俺は金より妻の体が心配で

 

「やめてもいいよ?」

 

っていうんだよ。

 

でも返ってくる答えは決まって

 

「じゃあお金はどうするの?」

 

だった。

 

そりゃそうだ。

妻より稼いでねぇのに金はどうすんだって話だよ。

 

俺はこれを言われると、ぐぅの音もでねぇ。

なんも言えねぇ。

 

北島康介の比じゃねぇ。

 

辞めさせてやりてぇけど、辞めさせてやることができねぇ。

 

これが情けなくて、悔しくてな。

 

だからだんだんと妻の愚痴から逃げてた。

 

愚痴が聞きたくないわけじゃねぇ。

愚痴なんていくらでも付き合ってやるよ。

 

ただ最後に「仕事やめたい」って言われると、なんも言えねぇんだよ。

どうしようもなく、やるせない気持ちになるんだよ。

 

だから妻の愚痴から逃げてたんだな。

 

当然、妻からすりゃ自分はこんなに頑張ってるのに、愚痴も聞いてくれないってなるわけだ。

 

まさに悪循環。

負のスパイラル。

 

俺が素直に自分の気持ちを話せたらよかったんだろうけどな。

ちっぽけなプライドが邪魔してそれもできなかった。

 

もちろん転職も考えてたよ。

 

でもな、求人探してもさぁ

資格もねぇ、特別なスキルもねぇ俺に、今よりいい条件の仕事なんてねぇのよ。

 

当然、新入りからスタートだし、給料も今より下がっちまう。

 

そうなっちまったら元も子もねぇ。

 

それで転職も尻込みしてた。

家族もいるし、慎重になってた。

 

でもな

今考えると、なんだかんだ理由つけて逃げてただけなんだよ。

 

この年齢で新しい場所に飛び込んでいく勇気がなかっただけなんだよ。

 

俺に勇気があれば今の状況も変わっていたかもしれねぇ。

収入も増えて、妻も仕事を辞めれたかもしれねぇ。

 

今さらおせぇよな。

 

んでな、そんなこんなで離婚に至るわけなんだけどさぁ

この離婚をキッカケに俺は転職したんだよ。

 

35歳だし、これが最後のチャンスだと思ってな。

 

やることなすことおせぇよ。

 

んで、転職先ってのがさ、今まで仕事のお客さんだった会社なんだよ。

 

そこの社長がさ、昔から俺をえらく気に入っててな。

前から「うちの会社に来い」って言われてた。

 

でもそこの会社も給料が安いの知ってたからさぁ

「まぁ、そのうちねー」なんて言って誤魔化してた。

 

でも離婚を知った社長が、養育費やなんだと出費が多い俺の事情を考慮してくれてな。

今まで以上の給料と、将来のポストまで用意して「うちにこい」って言ってくれたのよ。

 

え、風邪引いた時の親ですか?

なんでそんなに優しいの?

 

この社長、なにを買い被ってんのか知らねぇけど俺に対する期待が半端じゃねぇ。

 

おいおい、俺は自分の家族も幸せにできなかった男だぞ?

俺の長所なんて、注射わりと平気くらいしかねぇ。

 

え、おたくの会社潰れますよ?

 

そんな過度な期待にプレッシャーを感じながらも、俺は転職を決めた。

 

もうやるしかねぇ。

 

35歳にして、離婚して転職までしちまったのよ。

 

今まで以上の給料を保証されてな。

 

皮肉なもんだよな。

離婚してから、妻を主婦にしてやれる目途が立つなんてさ。

 

もう大事なあいつはいねぇっつーんだよ、バカヤロー